【ヒスシノ】その横顔はまるで絵画のようで
ヒースクリフが好きだ。それは健やかに羽毛の枕に頭を沈めて眠る時。ナイフとフォークで優雅に命を切り分け、口へと運ぶ時。真摯な態度でファウストの授業を受けるまなざし。「表情には出ない」という彼が見せる、色鮮やかな光彩がシノは好きだ。
その為、シノがヒースクリフを驚愕させるこの台詞を放ったのも必然だったのだ。
「お前は誰よりも綺麗だ。だから、抱かれてやってもいい」
青少年の性へ対する興味というのは、時に踏み越えてはいけない一線すらも余裕で越えて見せる。
「冗談はよせよ」
と始めは怒るそぶりを見せていたヒースクリフも、本能には抗えないのだ。
若気の至り。
きっかけは至極簡単。夜の帳が下り、動物たちも眠りに就く頃、シングルベッドで戯れてキスをした二人。そこからは縺れ合うように肌と肌を重ねたのだ。
初めてお互いから与えられる快楽を知った二人は、行為に魅入られるのもあっという間だった。長年の幼馴染みというのは、ある種家族のようなものである。醸し出す空気が欲情を孕んでいるかどうかなど、顔を見ずとも伝わるものだ。
その夜も、シノはヒースクリフを組み敷き、彼の上で腰を揺らしていた。
「あぁあっ、シノッ、も、だめ…… ッうあッ」
「イッていいぞ。オレもヒースが欲しい」
「お前はッ、なんっ、でッ、そんなっぁあっ、余裕なん、
だッ…… !」
「オレはヒースよりも長く生きているからな」
「うぅあぁッ、はっ、ふぅッ…… 」
穿たれているのは、シノの方である。しかしシノは首筋に一筋の汗を垂らしながらも、
飄々としている。真っ赤な顔で瞳を潤ませるヒースクリフとは対照的だ。
そんなヒースクリフに気分を良くし、シノは己の中で膨張するヒースクリフの欲望をきつく締め上げた。
「あぁぁぁあ、もっ、でる…… ッ!」
その肉壁の圧迫に耐えられず、ヒースクリフはシノの中に精を放つ。解放される表情を見られたくなく、ヒースクリフは自らの手で顔を覆おうとするが、呆気なく両手首を頭上でまとめられる。
「やだっ、かおっ、見るなあ…… !」
「どんなヒースでも綺麗だ。オレに見せろ」
その頬に、唇に、シノは口づけをする。とろけるように甘い、極上の笑みを浮かべな
がら。
「オレはお前を、生涯綺麗だと思うだろう。愛している。ヒース」
きっかけは興味。しかし、実のところきっかけなどどうでも良いのだ。
二人の間には何者にも邪魔することができない、確かな愛情がある。
果ててぽやんとシノを見つめるヒースクリフの隣にずっと自分がいればいい。そう、シノは愛おしい彼の頬を撫でながら考えていた。