【ヒスシノ】君は可愛い
ぱたぱたと雫が魔法舎の窓を叩く。この時期は雨が多い。
晶の国の言葉では「梅雨」と言うそうだ。
雨の日の自室のベッドをマナエリアにしているヒースクリフは、普段から寝起きが悪いがこの時期になると一層悪くなる。
シノが起こしに行かないと、彼は午後にかけてまで布団に潜っていることもあるくらいだ。
今日も午後からとはいえ、ファウストの座学が入っている。朝ご飯もネロが用意してくれていることだし、シノはヒースクリフの事を起こしに行った。
「ヒース、起きてるか」
ヒースクリフの部屋の前でノックをする。しかし、起きている気配は無い。
「おい、ヒース」
ごんごん。と更に強く扉を叩くが、一切反応が無い。
試しにドアノブを回すと、そこは引っ掛かりも何もなくすんなり開いた。
「不用心だな、誰かが入ってきたらどうするつもりなんだ」
シノは自らの事を省みず、悪態を吐きながらヒースクリフの部屋へと入る。
「おい、ヒース。起きろ」
彼のベッドの前まで来ると、シノはヒースクリフを揺さぶった。彼はむにゃむにゃと夢見心地で、言葉にならない言葉を話している。
「ヒース」
あまりにも起きないヒースクリフに対して、シノはヒースの布団を捲り上げる。しかしそんなシノに対しても反応がなく、うぅん、と丸まるばかりだ。
早く食堂に行かなければネロの朝食が無くなってしまう。焦ったシノは自らの唇をヒースクリフの耳元に寄せ、こう囁いた。
「起きないとキスするぞ」
「んぅ…… 」
それに対しても反応は薄い。
「キス待ちか?」
「起きればいいんだろう…… むぅっ」
ヒースクリフのことなどお構いなしの様子で、シノはヒースクリフの唇を奪う。
情事の時のような激しいものではなく、ちゅっと軽く触れるだけのキスだ。
「起きないと、さらに深くするぞ」
「おっ、起きる!起きるから!」
焦るヒースクリフの肩を掴み、シノは角度を変えて唇を合わせる。
強引なシノに、ヒースクリフの右手はシノの腕をぎゅっと掴む。やめろ、と言わんばかりに左手では彼の発展途上の胸板を押し上げながら。
「おはよう」
起きた様子のヒースクリフに、シノはしてやったり顔だ。
ふん、と鼻で息を吐きながら、シノはヒースクリフの晴れ渡った海のように透き通ったブルーの瞳を覗いた。
「ヒースがキスの時、オレの腕をぎゅっと握るのが好きだ」
「そんなこと…… 」
「してる。かわいい」
覚醒しきったヒースクリフは、自分を無理やり起こすシノに呆れながらも、ネロの待つ食堂へと向かおうと思った時だ。
キスにより少しだけ持ち上がった性器を、寝間着の布越しに指でつつかれる。
「ヒース、これだけで我慢できるのか」
シノが挑発的な、妖艶な笑みを口許に浮かべた。
〇〇〇
結論から言うと、ネロの朝食は食べ損ねてしまった。あの後、ヒースクリフの上に乗ったシノが彼の朝勃ちを処理してくれたのだ。
「寝坊したな」
「お前が悪いんだろう」
「ヒースが可愛かったのが悪い」
そんなバカップルみたいな会話をしながら、軽いものを食べるべく食堂に向かおうとした時だ。
「シノ…… んっ」
これから先の言葉を飲み込むように、シノはヒースクリフにキスをした。
雨は止むことを知らず、先ほどより勢い良く、二人を祝福するシャワーのように降り注いでいた。